資生堂 化粧品開発センター グループリーダー 渡邊裕子氏を招いて
『科学でときめくということ』
JMACSでは、この度、平成26年度愛媛未来つくり協働提案事業として、女子生徒への理工系分野への進路選択支援事業の一環である講演会を開催しました。
平成27年1月25日13時より、愛媛大学メディアホールにて、講師に資生堂化粧品開発センター グループリーダー 渡邊裕子氏を迎え、『科学でときめくということ』を講演していただきました。
渡邊氏は、資生堂の化粧品開発センター グループリーダーとして、主にスキンケア領域に従事し、赤ちゃんから60歳を超える様々な年齢、肌質、ニキビ、しわ、たるみなど多様な女性の肌について研究し、商品開発に取り組まれています。
中高生の頃、理系を選択したきっかけは、暗記科目より理系の科目が好きという理由からだそうです。理系の生物分野に興味を持ち、まずは教養課程が長期間ある大学へ進学し、さらに様々な分野の科学を扱う化粧品会社と、常に幅広い分野を持つ場所へと進路を進めるうちに、たくさんの方と出会い、「自分とタイプがちがう人がいるところにいくと、自分が成長できる。」と感じたそうです。
また、大学で、植物の発芽時に増加するアミノ酸の研究に取り組んだ際、アミノ酸配列を決定し、一旦、研究の区切りがついても、さらにそこから、糖鎖の解明という新たな研究が始まり、科学の探究が終わらないというところにとても魅力を感じたそうです。
現在のお仕事でも、化粧品の開発を通して、消費者のニーズ、商品の安全性、時代の流行など、常に新しい課題に対して向きあい、研究を続けている姿は、まさに終わらない研究を楽しんでいるようでした。
次に、化粧品開発に必要な科学についての紹介がありました。
肌の研究開発では、実際にシミのもとであるメラニンが生成され、細胞間で受け渡されていく映像を見せていただきました。この映像は、最先端の科学技術を駆使して撮られたもので、映像で「現象をとらえる」ということが、研究において非常に大切です。まず現象を用いて、考察し、商品を開発し、その効果を再度、現象として観察します。そのため、「現象をとらえる」ための映像の技術がとても重要であることがわかりました。
たるみの研究の紹介では、中高生にも実感しやすいように、年齢とともにどのように肌の状態が変化していくかシュミレーションで見せていただき、みなさんとても興味深く見ていました。
化粧品の分野では、肌の研究という基礎研究の他にも、「気持ちよさ」の感覚を構成する、感触、香りなどについても研究されています。また、メイクした顔に対して他者が感じる脳の反応や化粧品のパッケージなどについても研究がおこなわれており、化粧品とは、まさに多くの研究者がそれぞれの分野を駆使して取り組んだ科学技術の結晶であると感じました。
さらに、世界100以上の国・地域で化粧品を販売している資生堂では、外国においても研究開発の拠点をおき、各地方の気候や化粧文化に対応する商品の開発に取り組まれているそうです。
理系の研究者として、商品の内容、開発の現状などを世界の人々に伝える中で、「伝える=互いを知る」ことだと感じられたそうです。理系の研究者がプレゼンを行えば説明をする際に、データという事実をもとに伝えることができるという強みがあり、それが、自信や信頼につながります。
研究に真摯に取り組まれ、化粧品という分野で新しい時代を切り開かれている渡邊氏の講演は、中高生にとって、将来の理想の理系研究者のロールモデルとなり、これからの夢や仕事に向かって、理系に進んだその後のイメージを描くことができました。
講演会後、女子中高生を対象に講師の渡邊裕子氏と一緒にカフェ形式にて、交流会を行いました。
はじめに、屈折率によりガラス棒が見えなくなるという実験を見せていただきました。
化粧品の毛穴を隠すという技術を例にとり、「すべて消すことは、科学にとって難しい技術ではないけれど、自然に見える程度に消す」ということが技術としてとても難しいということを教えていただきました。
また、使用感を変えずに、保湿成分の入った化粧品の浸透圧のみを変えた液を実際に指先にのせて体感してみました。人工皮膚では、浸み込まない液とぐんぐん浸み込んでいく液の違いは明らかでしたが、触った感覚ではほとんどの人が違いを感じませんでした。
生徒さんたちからは、「肌の中の細胞の仕組みを観察する技術はどういう仕組みですか?」という科学への質問から(「コラーゲンを観察する技術に対してでしたが、コラーゲン分子にのみ反射する波長で写している。」そうです。)、「洗顔のときに気をつけることはなんですか。」という肌の悩みに対する質問もあり(「中高生の皆さんは、きめ細かい泡で洗顔し、しっかり落とすことが大切。」)、さらに「どうして、高機能な化粧品をあんなに安い値段で提供できるのですか?」というするどい質問など、たくさんの質問が飛びかいました。
渡邊氏が企画開発された「専科」のシリーズでは、価格を抑えるために、ボトルをロボットが持てる形状にし、化粧水の注入から段ボール詰めまでの箱詰め工程をロボットができるように工場と連携して作りあげていったそうです。企業で働く開発者の努力が消費者である私たちの満足へとつながっているのですね。
最後に渡邊氏より、中高生のみなさんに向けて、
「愛媛県という瀬戸内気候に恵まれ、自然豊かな土地で、今こうして学び成長していることこそが、あなた自身のアイデンティティを育んでいる素晴らしいことです。世界に出て、自分の研究など、自分が何かを伝えるときに、まず自分が何者であるかということが大切です。四国や愛媛には世界に向けて自慢できることがたくさんあり、みなさんには東京ではなく、もっとグローバルな視点で世界を見据えて頑張っていってほしいです。」とのメッセージをいただきました。
ぜひ、愛媛出身の研究者となり、美味しいみかん、美しい多島美のしまなみ、遍路の文化など、愛媛の素晴らしさを世界へ発信してください。
理系の仕事は生物や地球、宇宙の現象を調べたり、新しい物を開発したり、人の生活をより豊かなものへと変えていく素晴らしい仕事です。みなさんの理系進路選択を応援しています。
平成26年11月16日(日) 愛媛大学 理学部にて、愛媛大学プロテオサイエンスセンター 杉浦 美羽 准教授を講師に迎え、第二回実験サイエンスカフェ・for girlsを開催いたしました。
「光合成の色素を分けてみよう!」
今回は愛媛大学の学生用の実験室、器具、装置を使わせていただき、光合成に使われている色素を取り出す実験をしました。植物やラン藻などは、太陽光エネルギーを使って、水から酸素を、二酸化炭素からデンプンを作ります。光合成は地球に棲む全ての生物の生存を支えるとても大事(重要)な反応です。今回の実験では、ホウレンソウから光を効率良く捕らえるための色素を取り出し、クロマトグラフィーで分離してみました。
まず、ホウレンソウの葉を乳鉢ですり潰しました。細胞壁をしっかりと壊さないといけないので、思った以上に力がいります。つぶしてどろどろになった葉に有機溶媒を加え、その抽出液をろ過すると、緑色のきれいな液体になりました。その緑色の液に食塩水を加え、グルグル、グルグルと色素が分離してくるまで根気よく撹拌します。 10分ほど撹拌していると、液体が層状に分離しました。上澄み液が濃い緑色の層になって、まるでエメラルドのような色です。参加者のみなさんも「とても、きれい!」と驚いていました。
上澄み液をピペットで吸い上げ、瓶にとります。次にその抽出液を、毛細管で吸い上げ、ろ紙に線を引きます。初めての作業にみなさん、真剣に取り組んでいます。
ろ紙を展開溶媒が入った展開層に立てかけて、色素抽出液がどう展開していくか観察しました。(クロマトグラフィー)
一本の緑の線だった物が、黄色、きれいな緑、少し濁った緑にだんだん分離してきました。
クロマトグラフィーの結果を待つ間、杉浦先生と研究員の方、理学部の大学生・大学院生の学生さんと一緒にカフェ形式にて、交流会を行いました。
葉の主な色素であるクロロフィルが赤色と青色の光を吸収するので、葉は緑に見えることや、葉が紅葉する仕組みなども教えていただきました。とても興味深いお話でした。
生徒さんからも「植物工場に使われている光が、赤色と青色だと効率が良いということと関係していますか?」と鋭い質問が出ました。
また、先生が取り組まれている光合成電子伝達系のしくみについても教えていただき、光合成の持つエネルギーにみなさんとても驚いていました。
←藍藻類の入ったビーカーに光を当てると、酸素が出る様子を観察中。
理学部のお兄さん、お姉さんたちに、どうして理系の学部に進んだのか教えてもらいました。
みなさん、進路選択の際に迷ったりもされたそうですが、共通していたのは、実験が好き!理科が好き!ということでした。研究に取り組みながらの大学生活は、とても充実しているそうです。
研究室の様子や実験でのやりがい、大学生活についてなど、たくさんのことを教えていただき、とてもにぎやかに歓談を楽しみました。今回のクッキーにはクロロフィルの構造式がプリントされていて、愛大どら焼きやジュースもいただきながらの和気あいあいとしたカフェでした。
杉浦先生にもこれまでのご経験を聞かせていただき、中学・高校生の頃に「音」から始まった興味が、「光」へそして「光合成」へと深まっていったことや、音楽活動、フェンシング、ヨットなどの様々なスポーツに趣味を持っていることなども教えていただきました。
バイタリティ溢れる先生のお話は中高生のみなさんにとって、将来への目標となったことと思います。
平成26年10月19日(日) 愛媛大学 校友会館にて、㈱エリエールプロダクトの商品開発部の石川靖子氏を講師に迎え、第一回実験サイエンスカフェ・for girlsを開催いたしました。
「科学の不思議を詰め込んだ紙おむつの世界」
今回は、赤ちゃん用紙おむつの商品開発に携わっている石川さんにたくさんの実験を体験させていただきました。初めに、エリエールプロダクトがどんな会社で、どんな製品が作られているかの説明がありました。実際に生活の中で使用している身近な商品を作っている会社なので、中高生のみなさんは興味深く聞いていました。
次に、「自分が紙おむつの新製品を作るなら・・・」という設定で、紙おむつに使われている材料について実験をしてみました。 まずは、高吸水性樹脂がどのくらい水を吸収するかの実験です。5mgのポリマーの粉が、どんどん水を吸い込んでいく様子にとても驚きました。 A液とB液を二層になるように注ぎ、両液の界面をピンセットでつまんで引き上げるとナイロン繊維が合成されました。
ほかにも、水を通さずに空気だけを通すフィルムの性質を確認してみたり、撥水性の不織布と親水性の不織布の性質を実験によって変化させてみたりと、紙おむつに使われている様々な材料に触れ、その中に隠されたたくさんの科学について学ぶことができました。
最後に新製品「アロマジック」に使われている最先端の科学、おしっこの匂いがアロマの香りに変わるという実験をしてみました。 消費者の声を開発者が聞き取り、そして、新商品が生まれるという過程がとてもよく理解できました。講師の石川さんからも「身近な商品の中にたくさんの科学があふれています。なぜだろうと疑問をもつことがとても大切です。疑問を解決するために調べたり、実験をしたりしてみてください。」とのメッセージをいただきました。
講議と実験の後、石川さんをはじめ、同じく㈱エリエールプロダクトで商品開発に携わっている岡田さん、中村さんの3名と愛媛大学の理系女子学生サイエンスひめこの6名の方に参加していただき、カフェ形式にて、交流会を行いました。
講師のみなさんがどんなことに興味を持ち、なぜ理系を選択したのか、どういう過程で現在の仕事へつながっていったかなどを聞くことができ、中高生のみなさんは自分の将来の進路と重ね合わせて興味深そうに聞いていました。 石川さんのこれまでの歩みから、自分ができることに一生懸命取り組んできた姿や外国へのホームスティ、ボランティアなどに積極的に参加した行動力など中高生のみなさんも見習う点がたくさんありました。
石川さんが社会に出て、一番役に立ったと思う理系ならではの経験は、「仮説→検証→結果に対する考察→次への進め方を決定」という、研究で培ったプロセスだそうです。会社で働く際、様々な場面で、そのプロセスを用いて課題解決に向けて取り組んでいるそうです。
サイエンスひめこさんからも、苦手な科目の勉強方法などを聞いたり、大学生活の様子を教えてもらったりとたくさんのアドバイスをもらいました。中高生のみなさんには進路選択にむけて有意義な時間となったようでした。